ニュージーランドのフェリー座礁事故、原因は自動操舵の操作方法

2026年5月29日、ニュージーランドの運輸事故調査委員会(TAIC,Transport Accident Investigation Commission)はフェリー「ARATERE」座礁事故に関する最終報告書を公表しました。
フェリー「ARATERE」の座礁事故は2024年6月21日に発生。ニュージーランド南島の北東部に位置するピクトンと北島南部のウェリントンを結ぶ約95km(約51海里)の航路に就航しており、ニュージーランドの鉄道事業をおこなう国営企業KiwiRailが所有するInterislanderが運航していた。
TAICの最終報告書によると、フェリー「ARATERE」に事故を引き起こすような機械的故障は見つからなかったとした上で、事故原因は操舵システムの工学的欠陥ではなく、自動操舵の操作方法によるものだと結論づけている。
事故が起きるおよそ1カ月前の2024年5月に、フェリー「ARATERE」は操舵制御システムのうち自動操舵を除く各コマンドコンソールの操作をKongsberg製のシステムに置き換える作業を実施。新しい操舵制御システム設置後、事故発生までの約3週間で83回の島間横断をおこなっていた。事故につながった要因として、出発前の厳格なブリーフィングの欠如や乗組員へ新旧システム間の違いを特定した適切な訓練がおこなわれていなかったことが挙げられています。
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出典:Transport Accident Investigation Commission
(https://taic.org.nz/sites/default/files/reports/2026-05/MO-2024-204%20Final%20Report.pdf)
座礁事故発生までの時系列
- 6月21日
21時10分ピクトンでの積込完了 - 19分バース離岸
- 26分01秒自動操舵を作動
潮流や風による横方向の逸脱を自動検知し、船が取得した方位を操縦するコースモードに設定。この時、船体は36秒前にMabel Island waypointを通過しており、Snout waypointをロックオンしていた。
- 30秒実行ボタンを押す
コースモードはwaypointで実行ボタンを押さなければ自動的にターンしない仕様
- 27分01秒ECDIS(電子海図情報表示装置)から航路逸脱に気付く
船体が岸へ向かい右舷方向へ航路を逸脱していたため、舵を左舷に傾けようとtakeover(支配権取得)ボタンを押したが自動操舵を手動操舵に切り替えることは出来ず
- 43秒推進システムの速度と方向を制御するレバーを全後進に操作
この時の速力は13ノット。後進を始めるまでに左舷プロペラ21秒、右舷プロペラ38秒を要した。
- 28分34秒速力約8ノットに低下
通過位置の水深は10mで船底はまだ接触していない状態
- 46秒速力1ノットに低下
船底が海底に接触した正確な時刻は特定されていない
- 50秒座礁

出典:Transport Accident Investigation Commission
(https://taic.org.nz/sites/default/files/reports/2026-05/MO-2024-204%20Final%20Report.pdf)
TAICの最終報告書には、フェリー「ARATERE」がピクトンを出発して座礁するまでの時系列が記載されています。
2024年6月21日21時10分、フェリー「ARATERE」はピクトンでの積込完了し、21時19分にバースを離岸してウェリントンへ向かい航行を開始。
21時26分01秒、コースモードと呼ばれる潮流や風による横方向の逸脱を自動検知し、船が取得した方位を操縦するモードで自動操舵を作動。コースモードはwaypoint(計画航路を通過のためチャート上に指定されたポイント)で実行ボタンを押さなければならず、自動的に方向転換しない仕様。

出典:Transport Accident Investigation Commission
(https://taic.org.nz/sites/default/files/reports/2026-05/MO-2024-204%20Final%20Report.pdf)
自動操舵を作動させた時点でフェリー「ARATERE」の航行位置は、36秒前にMabel Island waypointを通過しており、次のwaypointであるSnout waypointをロックオンしていた。Mabel Island waypointを通過する前であれば、実行ボタンを押した時の針路変更は真方位30度から33度へ、僅か3度の小さな変更。しかし、実際は自動操舵が既にSnout waypointをロックオンしていたため、実行ボタンを押した時に針路は真方向73.8度に設定され、岸に向かって大きく航路を逸脱し始める。

出典:Transport Accident Investigation Commission
(https://taic.org.nz/sites/default/files/reports/2026-05/MO-2024-204%20Final%20Report.pdf)

出典:Transport Accident Investigation Commission
(https://taic.org.nz/sites/default/files/reports/2026-05/MO-2024-204%20Final%20Report.pdf)
ECDIS(Electronic Chart Display and Information System:電子海図情報表示装置)から航路逸脱に気付き、操舵手(Helmsman)は手動操舵に制御を移そうと試み、中央操舵手操舵コンソール(Central helmsman steering console)のtakeover(支配権取得)ボタンを押した。その後、ハンドルを左舷に強く回したが、手動操舵への操舵指令の移行はおこなわれておらず、自動操縦のまま船体は右舷に旋回を継続。
takeoverボタンを押したにも関わらず手動操舵へ制御移行が実行されなかった理由は、新たに設置したKongsberg製の操舵制御システムにあった。新しいKongsberg製の操舵制御システムで重要な特徴として、コンソール間の制御移行をおこなう場合、舵角の指示を±2度以内に揃えなければならない。したがって今回の場合では、takeoverボタンを押す前に自動操舵のトラックパイロットによる舵角に対して中央操舵手操舵コンソールの舵角を±2度以内に揃える必要があった。これは、制御ステーション間の舵角に関係なく制御移行が可能な旧来の操舵制御システムとは異なっていたという。
21時27分43秒(座礁するおよそ1分前)、推進システムの速度と方向を制御するレバーを全後進に操作。この時の速力は13ノット。後進を始めるまでに左舷プロペラ21秒、右舷プロペラ38秒を要した。
21時28分50秒、座礁。フェリー「ARATERE」に乗船していた乗組員と貨物輸送ドライバーの合わせて48人にケガは無く、浸水も確認されませんでしたが、船首にへこみが生じて内部構造も損傷を受けていたため、修理が必要となった。
安全上の問題と是正措置
安全上の問題点1:運航会社の安全管理システムに記載されている安全航行手順が、ブリッジチームによって適切に実施されていませんでした。その結果、これらの安全航行手順に内在するリスク軽減策が欠如しており、軽微な危険が深刻化し、重大な結果を招きました。
安全上の問題点2:船舶の安全上重要なシステムを変更するプロジェクトにおいて、安全管理システムに記載されている安全航行が確実に保護されるという保証がありませんでした。プロジェクトは主に設置作業に重点が置かれ、安全上の影響や訓練を含む、より広範な変更管理についてはほとんど考慮されていませんでした。
TAICの最終報告書では分析した安全上の問題が2点挙げられている。それぞれの問題点に対し、運航会社のInterislanderと親会社で国営企業のKiwiRailは、実施した改善を含む是正措置を報告。
運航会社のInterislanderはKongsbergにカスタマイズされたフェリー「ARATERE」専用ユーザーマニュアルの作成を依頼し、乗組員に提供するとともに訓練をおこない、操舵制御システムの制御検証を実施。
TAICは最終報告書で2つの安全上の問題に対応した安全対策がおこなわれたという見解を示し、いかなる勧告もおこなっていないと述べている。
会社の安全管理体制も重要であることは間違いありませんが、今回の場合のように新しく設置した操舵制御システムの操作手順を完全に把握していない状態で運航をおこなっていた乗組員の低い安全意識にも大きな問題がある様な気がします。
Ro-Roフェリー「ARATERE」
| 船名 | ARATERE |
| 総トン数 | 17,816トン |
| 載貨重量トン | 5,464トン |
| 長さ | 183.69m |
| 幅 | 20.25m |
| 深さ | 12.78m |
| 船籍 | ニュージーランド |
| 建造年 | 1998年12月 |

出典:MarineTraffic | Alex B



















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