来島海峡西口でガット船と貨物船の衝突事故
2024年6月5日午前1時35分頃、岡村島から南へ約2km、来島海峡の西口でガット船「第八十八親力丸」と貨物船「卓洋丸」の衝突事故が発生。衝突した2隻に乗船していた合わせて13人の乗組員にケガは無く、油の流出も確認されていない。
事故当時、ガット船「第八十八親力丸」は山口県の下松を出港して東へ進んでおり、貨物船「卓洋丸」は和歌山を出港して西へ向かって航行していました。衝突事故が起きたのは来島海峡航路の西口のようですが、AISの航跡を確認すると貨物船「卓洋丸」は来島海峡は通航しておらず、船折瀬戸を通っていました。
ガット船「第八十八親力丸」は衝突による亀裂で浸水
衝突によってガット船「第八十八親力丸」は亀裂が生じ、浸水が確認されているという。自力で排水しているという状況の中、11時頃までは現場付近に待機していましたが、その後、広島県の呉方面へ向けて航行し、14時過ぎに江田島造船所へ到着していました。
来島海峡航路で定められている特殊な順中逆西航法
来島海峡では「順中逆西」という特殊な航法が定められています。
順中逆西航法とは、来島海峡航路を通航する時に順潮(連れ潮)となる船舶は中水道を通航するとういもの。順潮は中水道、逆潮は西水道という意味。理由は、中水道の方が西水道に比べて短く屈曲が少ないため。これによって、船舶の航行では右側通航という原則が、南流時(南に向かって潮が流れる時)に左側通行という通常にはない状態になる。
今回の衝突事故は来島海峡航路の西側で起きているため、一見すると「順中逆西」という特殊な航法は無関係のように思いますけど、ガット船「第八十八親力丸」が来島海峡を通航しようとしていたとするとそうではない。
ガット船「第八十八親力丸」の目的地が不明なため、衝突事故が無ければ来島海峡を通航するつもりだったと仮定。事故当時の来島海峡は南流最強(下表:-6ノット程度)に近い状態。したがって、来島海峡での通航は順中逆西により左側通行になっているため、ガット船「第八十八親力丸」が航路進入に向けて北側へ寄っていたことが衝突の要因になっている可能性はあるかもしれません。
7月1日開始予定の来島海峡航路西側海域における安全対策
今回事故が起きた来島海峡航路の西側海域では、2024年7月1日10時より新たな航行ルールの運用が開始される予定。
来島海峡航路を通航してきた船舶および通航するために航路へ進入する船舶は上図のb線を横切ってはならないというもので、航路外の車線変更禁止区間みたいな感じになっています。今はまだ運用されていませんが、もしガット船「第八十八親力丸」が来島海峡を通航しようとしていたのなら、安芸灘南航路第三号灯浮標を左に見て通過した後、b線北側に針路を向ける経路が指定されている。しかし、実際のAIS航跡は指定経路よりもかなり北側を航行している状態。この新航行ルールが運用されていれば事故は起きなかったのでしょうか・・。
新航行ルールには対象船舶から除外されるパターンもあり、来島海峡航路西口のすぐ北側にある大下瀬戸、御手洗瀬戸を通航する船舶は経路指定に従わずb線を横切ってもいいことになっています。いろんなパターンが想定されるのでルール作りも難しそう。
海の上を縦横無尽に航行できる船舶を安全に交通整理する新しいルールは必要なことですが、それだけで事故が無くなる訳では無い。周囲の状況をよく確認して把握し、無線での相互連絡や見張りなど基本的なことを実行した上でルールを守らなければ意味が無さそう。
ガット船「第八十八親力丸」貨物船「卓洋丸」の概要
ガット船「第八十八親力丸」
船名 | 第八十八親力丸 |
総トン数 | 692トン |
載貨重量トン | 1,855トン |
長さ | 81m |
幅 | 14.5m |
建造年 | 1995年4月 |
貨物船「卓洋丸」
船名 | 卓洋丸 |
総トン数 | 259トン |
載貨重量トン | 820トン |
長さ | 61m |
幅 | 9m |
建造年 | 2014年2月 |
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