橋を崩落させたコンテナ船「DALI」衝突事故、原因は配線の緩み

2025年11月18日、アメリカのNTSB(National Transportation Safety Board:国家運輸安全委員会)はコンテナ船「DALI」がフランシス・スコット・キー橋へ衝突して橋を崩落させた事故について、コンテナ船内の配線1本の緩みが原因で停電が発生したと報告。
11月18日にNTSB本部でおこなわれた公開会議。そこで調査官は、一連の出来事が起こるきっかけとなった原因について、船内電気系統の緩んだ配線によりブレーカーが予期せず作動したことを挙げ、その結果、フランシス・スコット・キー橋付近でコンテナ船「DALI」が全灯火停止し、推進力と操舵力の両方を失ったと述べた。
なぜ、配線が緩んだのか?
配線が緩んだ原因については、配線ラベルのバンドが端子台のスプリングクランプゲートへの配線の完全な挿入を妨げ、接続不良を引き起こしたという。
配線ラベルのバンド配置が端子台への配線固定方法に及ぼす影響


(左)配線ラベルバンドの正しい取り付け方法 と(右)コンテナ船「DALI」における配線ラベルバンドの取り付け方法
出典:National Transportation Safety Board
NTSBはプレスリリースで ”配線ラベルバンドの配置が端子台への配線固定方法に及ぼす影響を示す図” を公表しています。
図に示されている配線ラベルバンドの取り付け位置は、正しい方法だとカラーより上の位置になっているのに対して、コンテナ船「DALI」の方はカラーの大部分を覆うように配線ラベルバンドが取りけられているため配線がスプリングゲートへ完全に挿入されていない状態。
注釈を日本語に翻訳した ”配線ラベルバンドの配置が端子台への配線固定方法に及ぼす影響を示す図”


【日本語翻訳 Ver.】(左)配線ラベルバンドの正しい取り付け方法 と(右)コンテナ船「DALI」における配線ラベルバンドの取り付け方法
出典:National Transportation Safety Board
NTSBの委員長Jennifer Homendyは、”私たちの調査員は日常的に不可能を可能にしており、今回の調査も例外ではありません” と述べた上で ”コンテナ船「DALI」は全長約300メートルで、エッフェル塔の高さと同じくらいの長さがあり、何マイル(1国際マイル=1609.344m)もの配線と何千もの電気接続部があります。この1本の配線を見つけるのは、エッフェル塔の緩んだリベットを探すようなものでした。” と述べており、途方もない調査だったことを表現している。
委員長Jennifer Homendyはコンテナ船「DALI」の事故に関して、NTSBが調査するすべての事故と同様に防ぐことができた事故だったとして、今回の調査においてNTSBの勧告を実施することで、将来同様の悲劇を防ぐことができると述べています。
調査の一環として、NTSBは3月にアメリカ全土の橋梁における大型船舶の衝突に対する脆弱性に関する初期報告書を発表。報告書によると、メリーランド州運輸局をはじめとする外航船舶が航行する水路に架かる橋梁所有者の多くは、米国全州道路交通運輸行政官協会(AASHTO,American Association of State Highway and Transportation Officials)が長年にわたり大型船舶の衝突に対するリスク評価を実施するよう推奨してきたにもかかわらず、船舶の衝突が自らの構造物に及ぼす潜在的なリスクを認識していなかった可能性が高いことが判明。
NTSBは、初期報告書で特定された30の橋梁所有者に書簡を送付し、橋梁のリスク評価と必要に応じてリスク低減計画を策定するよう促したという。その後、すべての受領者から回答があり、各勧告の状況はNTSBのウェブサイトで公開されています。
調査の結果、NTSBは米国沿岸警備隊(US Coast Guard)、米国連邦道路局(US Federal Highway Administration)、米国州間道路交通局(AHSA)、日本海事協会(ClassNK)、米国国家規格協会(ANSI,American National Standards Institute)、ANSI認定建設解体作業安全基準委員会A10、HD Hyundai Heavy Industries、Synergy Marine、電気部品メーカーのWAGO Corporation、そして全米の複数の橋梁所有者に対し、新たな安全勧告を発行。
完全な調査報告書は数週間以内に公開される予定。
1980年に起きたフランシス・スコット・キー橋での衝突事故との比較

出典:National Transportation Safety Board
1977年に開通以来、フランシス・スコット・キー橋へ船舶が衝突する事故はコンテナ船「DALI」が初めてではなく、1980年にも日本船籍のコンテナ船「Blue Nagoya」が橋に衝突する事故を起こしていたそうです。
コンテナ船「DALI」の衝突事故で崩落したフランシス・スコット・キー橋ですが、コンテナ船「Blue Nagoya」の衝突では軽微な損傷のみだったという。被害の差は船の大きさに違いがあるためで、コンテナ船「DALI」が全長299.92m(984フィート)、総トン数95,128トンなのに対して、コンテナ船「Blue Nagoya」は全長118.87m(390フィート)、総トン数7,586トン。全長で約2.5倍、総トン数では約12.5倍の差。
NTSBはフランシス・スコット・キー橋の崩落と人命損失の要因について、1977年の開通以来、外航船舶の大型化が進む中で船舶衝突による橋の崩落リスクを軽減するための対策が不十分だったことを挙げている。
コンテナ船「DALI」の概要
- Owner(船主):GRACE OCEAN PRIVATE LIMITED
- Manager(運航会社):SYNERGY MARINE PTE. LTD.
- Shipbuilder(建造):HYUNDAI HEAVY INDUSTRIES CO., LTD.
| 船名 | DALI |
| 総トン数 | 95,128トン |
| 載貨重量トン | 116,851トン |
| コンテナ積載容量 | 9,971TEU |
| 長さ | 299.92m |
| 幅 | 48.2m |
| 船籍 | シンガポール |
| 建造年 | 2015年3月 |

出典:MarineTraffic | Ray Hensel



















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