定期高速船「ひかり八号」
北海道・知床半島沖の海で消息を絶った観光船「KAZU I(カズワン)」はもともと穏やかな瀬戸内海で定期高速船「ひかり八号」として運航されていたようです。
「ひかり八号」は1985年2月に山口県の造船所で造られ、広島県の三原市と尾道市生口島(いくちじま)を約30分で結ぶ定期高速船として使われていた。
瀬戸内海と知床半島では海象条件が大きく異なります。船を操縦する小型船舶免許に航行区域の制限があるのと同様に、船自体にも航行区域の制限がある。法律上の手続きを経て変更されていますが、そもそも「KAZU1」が知床半島で観光船として使用できる船だったのか疑問ですね。
航行区域の制限
「KAZU1」を知床半島沖で運航する時にどのような制限があるのか調べてみました。
まず、「KAZU1」を操縦する船長の免許について。
小型船舶操縦免許
船を操縦する上で基本となる小型船舶操縦士の免許。操縦できる船舶の種類は、総トン数20トン未満の船舶、24m未満のプレジャーボート。
小型船舶操縦免許 1級と2級の違い
小型船舶操縦士には、1級と2級の等級がありますが、操縦できる船舶の種類は同じ。
違うのは航行区域。小型船舶操縦免許にも航行区域の制限があります。
1級小型船舶操縦士免許の航行区域は無制限。付加条件がありますが、世界中どこの海にでも行くことが可能。2級小型船舶操縦士の航行区域は、海岸から5海里(約9km)以内の水域及び平水区域。この航行区域のことを沿岸区域といいます。
観光船「KAZU1」の運行ルートは沿岸区域に入っているので、小型船舶操縦士の免許は1級でも2級でも大丈夫という事になります。
観光船操縦には特定操縦免許が必要
ただ、旅客船や遊漁船など人の運送をする小型船舶の操縦をする場合は、小型船舶操縦士に加えて特定操縦免許が必要。これは海難発生時における措置、救命設備等に関する「小型旅客安全講習」の講習を受講するだけ。
今回の観光船「KAZU1」を知床半島で運航する時に必要な免許は1級又は2級小型船舶操縦士と特定操縦免許。
次に、船体の航行区域の制限について。
航行区域の制限
船の船体にも航行区域の制限があることをご存じでしょうか?
「ひかり八号」と「KAZU1」の航行区域が何で登録されていたかが分からないので想像ですが、瀬戸内海の大部分は平水区域に分類される。平水区域は湖や川及び港内等の水域のこと。「ひかり八号」が運航されていた広島県の三原市と尾道市生口島周辺は平水区域。
「KAZU1」は恐らく北海道斜里町(ウトロ)を母港に設定した限定沿海区域。
北海道斜里町(ウトロ)を母港に設定した限定沿海区域
JCI(日本小型船舶検査機構)のHPで、航行区域検索ページ(限定沿海)から北海道斜里町(ウトロ)を母港に設定した限定沿海区域を確認したところ、最強速力10ノット以上で「KAZU1」の運行ルートをカバーする範囲になりました。
JCI | 航行区域検索ページ(限定沿海)| 北海道斜里町(ウトロ)| 10ノット
定員を79人から65人に変更
「KAZU1」の航行区域を平水区域から限定沿海へ変更する時に定員を79人から65人に減らしたようですが、画像からも分かるように船体の外観はほぼ同一のまま。国の検査は通っていますが、もともと平水区域で運航されていた高速船を知床半島で運航することに無理があったのかも。
船体構造上の安全性を上げずに検査を通すなら、運用する上での安全性を上げる条件を付ける必要があったのかもしれませんね。例えば運航中止基準を8割に落とすとか、強風波浪警報はもちろん強風波浪注意報が発令された時点で運航中止とか。
書面上でどれだけ万全な運航規則を掲げていても守らない一部の方がいるのは確か。やっぱり瀬戸内海で運航していた船をほぼそのまま知床半島で運航できるように変更できる制度を見直さないといけないですね。
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