1年前に尾道で起きた「第八龍栄丸」沈没事故の船舶事故調査報告書
2024年1月25日、およそ1年前の2023年1月21日に広島県の尾道糸崎港付近で起きた押船「第八龍栄丸」沈没事故について運輸安全委員会から船舶事故調査報告書が公表されました。
押船「第八龍栄丸」が沈没したのは1月21日ですが、前日の1月20日に増設した櫓の上への船橋の移設(嵩上げ)、上甲板の補強、押船を台船に固着する油圧パッド装置の設置などの改造工事を終えたばかりという状態。1年前に事故を報じるニュースを見た時から事故原因が気になっていましたが、今回公表された船舶事故報告書によって究明された事故原因を知ることが出来ました。
押船「第八龍栄丸」が沈没した原因は、船首に取り付けられたフェンダータイヤ内側の船体破口からの浸水により、船首部区画に大量の海水が侵入したことだったという。しかし、その船体破口は停船時の喫水線より上に位置しており、ある程度の速力で長時間にわたり航行することで浸水が起きるというものでした。船舶に取り付ける緩衝材のフェンダーは、内側が露出していないため海水により接触部分の船体腐食が進みやすいということがある。
船首のフェンダー内側に浸水・沈没するほどの破口がある状態で出港した押船「第八龍栄丸」。結果的に乗船していた2人に大きなケガが無かったのは幸いですが、船体沈没という結果を回避するポイントはいくつかあったようです。
沈没を回避できた可能性があった2つのポイント
ポイント1
まず、沈没事故を回避できた可能性がある1つ目のポイントとして改造工事の期間が考えられる。
工事の内容は船橋の移設や油圧パッド装置の設置などの他に、左舷船首部の欠落した防舷材の取付けも実施されていたようです。欠落していたのは左舷防舷材で、取付ける場所の外板に亀裂が認められたため補修する工事をおこないその際に船首部区画の中に入って確認作業をおこなっている。沈没事故で浸水原因になったのは右舷船首部でしたが、補修をおこなった左舷船首部以外の外板検査については依頼が無かったので確認しなかったという。お客さんから言われたことだけやるのも効率的に業務こなす上で大切なことかもしれませんが、同様の部位で同じような症状があるかもしれないと想像して検査していれば、外板が薄くなっていた事故原因であるフェンダー下の破口を発見できた可能性は高い。
ポイント2
押船「第八龍栄丸」は改造工事を終えた翌日の1月21日朝8時に船長と機関員の2人が乗船して尾道糸崎港を出港し、大分県へ向けて6~7ノットの速力で航行を開始。しかし、2時間後の午前10時ころ、大三島沖を航行中に機関員から機関室と前側の船首部区画との間の隔壁下部にあるドレン管から機関室に海水が漏れ出しているのを確認し、船長に報告。
機関員からの報告を受けた船長は、機関室後部にある排水ポンプによる排水を指示した後、出航時にほぼ等喫水の状態であった船体が少し船首トリムの状態になっていると思い、本船を漂泊させて船体の状況を確認したところ、船体が船首側に約3°傾いているのを確認。船首部区画に溜まった海水がドレン管を通して漏れているものと考え、船首部区画が浸水しているものと判断したが、船首部区画内の確認については、出入口のマンホールハッチがボルトで締められているのでおこなわなかった。
船長は、船舶所有会社に本船の浸水の報告をおこなうとともに作業船による支援を要請し、担当者から本船が近くの岸壁に着岸できるように手配することを提案されたが、ドレン管を塞いで船首部区画で浸水を止めれば、尾道糸崎港の桟橋まで航行できると判断し、引き返す旨を伝えた。
これまで航行して来た経路を引き返し尾道糸崎港へ向かい、機関を最微速前進運転として約4ノットの速力で航行。船長からドレン管を塞ぐよう指示を受けた機関員は、ドレン管の管口にグランドパッキンを詰め、排水ポンプを作動させて配水しながら、航行を継続。
しばらくは左右の傾斜がなく、少し船首トリムの状態で航行を続けましたが、次第に船首トリムが増大。機関員は船尾部甲板で救命胴衣を着用して待機し、船長は船橋において救命胴衣を着用して操船を続けた。そして、尾道水道の東口付近で右舷船首側に大きく傾き始め、機関員が右舷側から海に飛び込み、左舷ウィングに移動した船長が水没の間際に海に飛び込み、その後、右舷船首側に傾いた状態で沈んでいき、13時50分ごろ沈没。
出港前の時点では喫水線よりも上にあった右舷船首部の破口ですが、出港後に約2.2ノットの逆潮の中、6~7ノットで航行したため、船首波によって右舷船首部の破口から浸水し、沈没に至ったようです。
事故後の聴取で船長は、機関員から本件ドレン管の漏水の報告を受けた際、以前にも別の船で船首部の防舷材を取り付けるボルトの穴が腐食して船内に浸水した経験があり、船首部の空所に清水を確保している他船を見たことがあったので、本船も船首部区画に海水を溜めても航行できるものと思っていたと述べている。
右舷船首部の破口から浸水が進行する前に、ドレン管から機関室へ海水が漏れ出しているのを確認した時点で最寄りの岸壁へ係船していれば沈没は防げた可能性はある。
船舶事故調査報告書による再発防止策
船舶事故調査報告書に記載されている再発防止策は以下の通り。
「第88栄伸号」による船体引き揚げ作業
沈没した押船「第八龍栄丸」の引き揚げ作業は、栄伸海事工業(本社:岡山県倉敷市)の400t吊り起重機船「第八十八栄伸号」によっておこなわれました。
400トン吊りクレーン船「第八十八栄伸号」
出典:Eishin
船名 | 第八十八栄伸号 |
クレーン能力 | 400トン |
長さ | 67.0m |
幅 | 25.0m |
深さ | 4.8m |
スパッド | 30m |
建造年 | 2014年1月 |
よく読まれている記事