得体の知れないクレーン船の正体
異様な船体をもつクレーンを搭載した作業船。
その船体形状は長さ97.5m、幅92m、高さ118m。海面上から遥か高い位置のプラットフォーム上には600トン吊りのメインクレーンと300トン吊りの補助クレーンの2基を搭載。
船体を支える浮体部分の主要構造は、4本の太い円筒形をした柱とクレーンが搭載されている位置の下部にある少し細い柱2本の計6本で構成されている。
船名は「雄程9」(XIONG CHENG 9)。その正体は、洋上風力発電設備の設置船。
風力タービン基礎の設置から、タワー・ナセル・ブレードといった上部のタービン設置も施工可能。最大で出力10MWクラスの風力タービン設置が出来るという。着床式の風力タービン設置と言えばSEP船と呼ばれる自船に搭載したレグでジャッキアップして、波浪による影響を失くした状態で施工するのが一般的ですが、「雄程9」はどのようにして風力タービンの設置をおこなうのか。
着座式風力発電設備設置プラットフォーム
「雄程9」は船体を沈めて、船底を着底させた状態で作業をおこなうという珍しいクレーン船。なかなか強引な方法ですが、船を着底させると浮いていない状態になり波浪による揺れが無くなるので、理にかなったやり方といえる。レグ無しでSEP船と同じ作業環境を作り出している。
これまでにも何隻か ”着座式” のクレーン船を記事で取り上げましたが、船体の高さでいうと今回の「雄程9」が最大だと思われる。なので、船底が着底した状態で作業できる水深が段違いに大きい。
船名 | クレーン能力 | 長さ | 幅 | 高さ | 最大作業水深 |
---|---|---|---|---|---|
雄程9 | 600トン | 97.5m | 92m | 118m | 52m |
巨杰702 | 700トン | 86m | 36m | 不明 | 24m |
德浮1200 | 1,200トン | 106m | 42m | 18m | 10m |
「雄程9」以外の着座式クレーン船の特徴として、船体を沈めて着底させることからフローティングドックに似たような形状をしていますが、「雄程9」は他船と一線を画す船体構造をしていることが分かります。実は、最初から着座式風力発電設備設置プラットフォーム「雄程9」を建造した訳ではなく、別の目的で建造されたものを改造しているという経緯があるようです。
さらに珍しい着座式SEP起重機船、2,500トン吊り「龙源振华陆号」
元は石油プラットフォームとして建造
「雄程9」は元々、「Octabuoy」という洋上で掘削・生産・貯蔵などをおこなう石油プラットフォームとして建造がおこなわれていました。
ヨーロッパの北海にあるcheviot油田を開発する目的で ATP Oil&Gas UK が2008年に COSCO SHIPPING と建造契約を締結。ですが、建造中に ATP Oil&Gas UK が破産してしまった為、建造プロジェクトは中止されてしまう。プロジェクトの進捗率は、船体部分で96%、上部構造モジュールで48%で船体部分は、ほとんど完成した状態だった。
その後、2020年になってから「Octabuoy」再利用計画の話が浮上し検討がおこなわれた結果、2020年12月から改造を開始。2021年12月に洋上風力設置船「雄程9」として完成。
さらなる改造の予定
助力海上风电!这一平台即将开始升级改造
(洋上風力発電を応援! このプラットフォームはまもなくアップグレードを開始します)
https://wind.imarine.cn/news/69582.html
改造を施されてから1年8カ月が経過した今、洋上風力設置船「雄程9」は中国南部の広西チワン族自治区 欽州市にいる。中国のニュース記事によると、CSSC(中国船舶工業)傘下の中船広西船舶及海洋工程有限公司で何らかのアップグレードがおこなわれるという。アップグレードの内容については書かれていないため、何がおこなわれるのかは不明。
6隻のボートに囲まれて入港する洋上風力設置船「雄程9」。この画像を見ると、現場での施工は少し厳しそうですね。海面上に出ている船体が大きいので必然的に風を受ける面積が多くなる。風車設置エリアで強風が吹いてしまうと為す術なく風車に激突してしまいそう。それに、毎回移動するたびにこの隻数のボートを配置してたら採算が合うとは思えない。
でも、気になるのでアップグレードの詳細が分かれば記事にしますね。お楽しみに!
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