アルゼンチンで起きた貨物船の橋脚衝突事故、原因は人的ミス
2024年1月にアルゼンチンのブエノスアイレス州でばら積み貨物船「EN MAY」が橋脚に衝突した事故で、原因について人為的ミスにより発生したと結論付けられた。
アルゼンチンのメディアによると、貨物船「EN MAY」の中国人船長は事故について舵の故障により制御不能に陥ったと述べていたようですが、司法当局は人的ミスが原因として中国人船長とアルゼンチン人パイロットを起訴。6ヵ月から3年の懲役刑が科せられる可能性があるという。
貨物船「EN MAY」は衝突により船首左舷側が橋脚に食い込み、橋脚への損傷拡大という危険性から安易に動かせない状態だったため、船体の離脱作業が実施されたのは事故から5日後でした。その間、橋が架かるパラナ・デ・ラス・パルマス川の航路は航行禁止の措置が取られた。橋面上の車両通行は可能であるとして、陸上車両の封鎖はおこなわれなかったものの、予防策として重量50トンを超える車両通行の制限や最高速度を時速60kmに制限するといった影響が出た。
5日間の航路封鎖により、30隻の船舶が遅延したことで数百万ドル(数億円)の経済損失が発生。衝突した橋脚を含む橋の損害については、暫定1,500万ドル(22億5,000万円)の被害額が見積もられている。
原因となった人為的ミスの内容
貨物船「EN MAY」の衝突原因とされている人為的ミスの具体的な内容については、十分な水深がある河川内の航路よりも外側を航行していたことが衝突につながったと報じられています。
河川での左右は上流側から見て左を左岸、右を右岸と言いますが、衝突前の貨物船「EN MAY」は河川内の有効な航路から外れ、左岸寄りを航行していたという。パイロットは航行位置について適切な助言をおこなわず、船長はルートエラーを修正しなかった。
アルゼンチンメディアの記事では左岸寄りの航行がバンク効果を引き起こし、橋脚への衝突につながったと書かれている。
このバンク効果とは、一体どんな現象なのか調べてみました。
バンククッションとバンクサクションによる影響
バンク効果について調べると、バンククッションとバンクサクションという2つの現象があるようです。
両者ともに河川や狭水道など狭い水路を船舶が航行する時に起こる現象。バンククッションとは、船首部と河岸との間の水圧が高くなり、船首が岸から離れるような作用を受ける現象。バンクサクションは、逆に船尾部の周りで水圧が低くなり、船尾が岸に吸い込まれるような現象。
私自身は海技士の免状を持っている訳でもなく、大型船を操船したこともありませんが、バンククッションとバンクサクションという現象について知りませんでした。大型船を操船する方々にとっては当たり前のことなのかもしれません。ただ、実際に事故が起きているので知っていても不意に陥ってしまう危険な現象であることは間違いない。
機関や操舵装置のトラブル以外で狭い水路を航行中に起きた事故を思い出してみると、この現象が要因だった可能性のある事故がいくつも思い浮かぶ。いい勉強になりました。
【動画】貨物船「EN MAY」衝突時と離脱作業の映像
下流から上流へ向かって航行しているので画面右が左岸側。
Filmado desde el barco. Así se tragó el puente Zárate Brazo Largo por un problema con el timón. pic.twitter.com/jpHf8JrnpQ
— Hechos y Derecho (@Hechosanderecho) January 30, 2024
事故から6カ月以上が経過した今も貨物船「EN MAY」は現地で修理中
橋脚衝突から5日後の2024年2月2日に橋脚から離脱し、下流へ約1.6kmの岸壁へ移動した貨物船「EN MAY」。そこで船首部分の船体に空いた穴を修理する作業を実施。驚くことに、6カ月以上が経過した今も貨物船「EN MAY」は同じ岸壁に留まっており、まだ修理は完了していない。
船首に大穴が空いているため造船所へ航行することが出来ず、岸壁に係留した状態での作業に加えて、船舶用の高強度鋼板が85~90トン必要で調達・運搬に時間を要していることから予想以上に修理作業が遅延。2024年8月中には完了する見込み。
ばら積み貨物船「EN MAY」
船名 | EN MAY |
総トン数 | 46,990トン |
載貨重量トン | 85,001トン |
長さ | 228m |
幅 | 36m |
船籍 | リベリア |
建造年 | 2017年 |
建造場所 | 大島造船所 (日本) |
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