五洋建設が大型基礎施工船の建造契約締結を発表、建造費1200億円


出典:PENTA-OCEAN CONSTRUCTION
2025年1月27日、五洋建設はシンガポールのSeatriumと洋上風力建設に用いる5,000トン吊りクレーンを搭載した大型基礎施工船(HLV,Heavy Lift Vessel)の建造契約を締結したと発表しました。
日本の洋上風力発電は、主として着床式洋上風力の整備が港湾区域で進められていますが、2027年度以降、一般海域において建設工事が本格化する見込み。五洋建設は、海洋土木のリーデイングカンパニーとして、日本の洋上風力発電供給拡大に貢献すべく、SEP起重機船やケーブル敷設船など、洋上風力建設に必要な大型作業船の建造等に積極的に取り組んでいますが、一般海域のプロジェクトでは、風車の大型化に伴い基礎のモノパイル重量も増加し、SEP起重機船では基礎の施工が困難になるという見込みから大型基礎施工船の建造を決めたという。
完成・引き渡しは2028年5月で2028年秋からの稼働を予定。
建造費は1,200億円。五洋建設が設立予定の子会社(50%)と芙蓉総合リース株式会社(50%)で建造費を負担し、共同保有する予定。2024年12月にシンガポールのPaxOcean Groupと建造契約を締結したケーブル敷設船(建造費310億円、2028年2月完成予定)についても同様に芙蓉総合リース株式会社と共同保有することが明らかにされています。
船体の長手方向にモノパイル積み込み、船尾には切り欠き
五洋建設が建造契約を発表した大型基礎施工船と日本国内で稼働しているクレーン船を比較すると、自航式で5,000トン吊りのクレーンを搭載しているという時点で圧倒的な施工能力を持っていますが、その他にも工夫が施されているという。
1つ目にモノパイルを船体の長手方向に積み込むという点。現在、世界で稼働している大型クレーン船はモノパイル施工時、船体の短手方向にモノパイルを積み込んでいることが多い。というか、この方法しか見たことが無いと思う。短手方向に積み込むとモノパイルの長さによる制限を受けないことに加え、本数を多く積めるというメリットがある反面、長いモノパイルの両端が舷側から飛び出してオーバーハングするので、港内の岸壁や既設構造物に接触する恐れがある。
船体の短手方向にモノパイルを積み込んでいる例

出典:DEME Group

出典:Jan De Nul
2つ目は船尾部分にU字型の切り欠きが設けられているという点。船体の長手方向に積み込んだモノパイルをそのまま建て起こして打設が出来るそうです。この方法によって、船体の横ではなく後方でモノパイル打設をおこなうことで船体による波や流れの遮蔽を受けて動揺が小さくなることに加え、船体の自動船位保持装置(DPS)により、気象海象条件の厳しい外洋においても、モノパイルを安全かつ効率的に施工することが可能になるという。
なかなか素晴らしいアイデア。現場海域の施工だけでなく、積み込み・運搬時のリスクも低減させるという安全を最優先に考えた工夫と言えるのではないでしょうか。ただ、問題になるのは積み込めるモノパイルの長さが制限されるという点。船首側にあるブリッジおよび居住設備はより長いモノパイルを積めるように配慮された設計となっているようですが、それでも限界はある。施工を想定しているのは、15MW~20MWクラスの洋上風力タービン基礎で重量3,000トンクラスのモノパイル施工が可能。
船体設計はUlstein、U字型の切り欠きは「ULSTEIN U-STERN」

大型基礎設置船の建造契約締結が発表された同日、Ulsteinは五洋建設から船体設計を委託されたことを明らかにしています。
船体設計は「ULSTEIN HX118」を基にカスタマイズされ、Huismanの5,000トン吊りメインクレーンと「ULSTEIN U-STERN」が搭載されるということなので、大型基礎施工船の船尾にあるU字型の切り欠きは「ULSTEIN U-STERN」のようです。船首形状には「ULSTEIN X-BOW」が採用されており、これまでに建造された「ULSTEIN X-BOW」搭載船の中で最大になるという。
「ULSTEIN U-STERN」は2023年4月に発表され、洋上風力タービンの大型化に伴い、サイズアップしていくモノパイル基礎の設置という重大な課題に対する解決策として開発。巨大なモノパイルの輸送・建て起こし・設置という一連の動作を安全でスマートに施工できる船舶設計ソリューションとして「ULSTEIN U-STERN」は発表されました。

- 動作が25%減少したことによる操作性の向上
- ”U字型の切り欠き” による優れた波の遮蔽
- モノパイルの制御された建て起こし
- 天候変化によるDP操作電力50%削減
- 横方向のモノパイル輸送と建て起こしに関する港内及び洋上での課題回避
Ulsteinのプレスリリースによると、2024年の夏から五洋建設と協力して大規模なモデルテストを含む基本設計に取り組み、船体設計はUlsteinのロッテルダムオフィスで開発され、基本設計フェーズではUlstein Polandから多大なサポートを受けているという。
Ulsteinの設計主任であるKo Stroo氏のコメントとして、五洋建設が新しい大型基礎施工船の設計にUlsteinを選んでもらえたことを光栄に思うと述べた上で、このプロジェクトは五洋建設、Ulstein、Huismanの強力なコラボレーションの成果であり、最も高性能な大型基礎施工船を設計すると述べています。
大型基礎施工船(HLV)の概要
船籍 | 日本 |
船級登録 | ClassNK |
クレーン能力 | 5,000トン |
DPS | DPS2 |
カーボンニュートラル対応 | バッテリー蓄電システム メタノールレディー |
基本設計 | Ulstein(オランダ) |
船体建造 | Seatrium(シンガポール) |
メインクレーン MP立起し装置等 | Huisman(オランダ) |
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