島が丸ごと基地に 馬毛島で国内最大規模の基地整備事業

鹿児島県の種子島から西へ12kmの位置にある馬毛島で国内最大規模の基地整備事業により島を丸ごと自衛隊の訓練施設として整備する巨大事業が進行中。馬毛島は、東西2.7km、南北4.5km、面積8.2km2で種子島北部の西之表市に属している。
事業の目的は、南西防衛の拠点として自衛隊施設を整備することに加え、米軍によるFCLPのための施設を確保するという理由があるようです。防衛省の事業概要によると、年間を通じてアジア太平洋地域で恒常的に活動を行っている米空母の存在は、この地域を安定させる上で極めて重要な抑止力、対処力となっており、その運用維持にはFCLPが不可欠だという。現在、FCLPは暫定的に硫黄島で実施されており、空母艦載機の拠点である岩国飛行場から遠く、緊急着陸用の飛行場が確保できないため、安全性に大きな懸念があることから、恒久的な FCLP 施設の確保が安全保障上の重要かつ喫緊の課題となっている。
FCLPとは、Field-Carrier Landing Practiceの略で、空母艦載機着陸訓練のこと。空母出港前に空母艦載機パイロットの資格を回復するために必要な訓練。滑走路長が300m程度しかない空母への離着陸は高い技術を必要とし、パイロットの錬度を維持するためには、一定の頻度で空母艦載機の発着訓練を行う必要がある。空母の入港中には空母甲板上での離着陸訓練が出来ないため、陸上基地の滑走路を使用して夜間離着陸訓練が行われる。

2022年度には1,680億円を超える随意契約

出典:馬毛島における施設整備について(防衛省)(https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/mage/)
建設する施設の概要として、長さ2,450mの主滑走路と1,830mの横風用滑走路の2本をくの字型に配置。飛行場関連施設として駐機場、格納庫、管制塔などの飛行場支援施設、貯蔵施設、訓練施設が整備される予定。港湾施設は、馬毛島の東側に防波堤で囲まれた係留施設と3基の仮設桟橋、島の南側には揚陸施設が建設されるという。
港湾施設の工事など6件について、防衛省から支出委任を受けた国土交通省九州地方整備局が2022年10月に随意契約を行なっている。国土交通省は随契の理由について「外洋に面した離島での特殊な施工のため」としている。
6件の随意契約による契約金額の合計は約1,680億円。なかでも五洋建設と東亜建設工業のJVが契約した島の東部に係留施設を整備する工事は最高額となっており、1件だけで961億円。
工事名 | 契約業者名 | 契約金額(消費税込み) |
令和4年度馬毛島係留施設等築造工事 | 五洋・東亜JV | 961億5,760万円 |
令和4年度馬毛島仮設桟橋築造工事(その1) | 五洋・鹿島・藤田JV | 100億43万円 |
令和4年度馬毛島仮設桟橋築造工事(その2) | 東洋・大成・みらいJV | 93億6,607万1,000円 |
令和4年度馬毛島仮設桟橋築造工事(その3) | 若築・あおみ・りんかいJV | 84億9,090万円 |
令和4年度馬毛島滑走路等新設工事(その1) | 鹿島・五洋・森JV | 227億180万円 |
令和4年度馬毛島滑走路等新設工事(その2) | 大成・東洋・藤田建設JV | 213億5,885万4,000円 |
報道されている情報によると、防衛省が2022年度に契約した関連工事は2022年11月末までに国交省分も含め約2,390億円。2022年度予算は補正と合わせ約4,624億円を計上しており、2023年度予算案では3,030億円を計上し、合わせると7,654億円に上る。
工事に関連する事故が続発
馬毛島の島内では2023年1月から工事が始まり、島の東岸に建設する港湾施設の工事は2023年3月から開始。まだ工事を開始して間もない段階で工事に関連する事故が2件報告されている。
1件目は、5月5日午後6時頃に馬毛島の工事に従事する作業員を乗せた交通船「馬毛島3号」が西之表市の住吉漁港に入港時、岸壁に衝突。事故当時、船には46人が乗っていましたが幸いなことに負傷者はいませんでした。その後の調査で、事故原因は船を前後に動かすレバーが一部操作できない状態だったことによるもので、操船していた船長は馬毛島を出港する際にレバーの不具合を認識していたという。
2件目は、5月16日午後2時頃に馬毛島を出港し長崎県五島に向かっていたガット船「第八天神丸」が鹿児島県南さつま市笠沙町野間岬の南南東約8.3kmの海上で浅瀬に乗り上げた座礁事故。午後4時頃、自力で離礁に成功し船に乗っていた船長を含む7人に怪我は無く、油の流出も確認されなかった。
2件の事故は負傷者なしで大きな物損もなく軽微な事故と呼べるレベルの事故かもしれない。ただ、対策を怠れば、近い将来に重大な災害へとつながる可能性が高い。ハインリッヒの法則と呼ばれる労働災害における経験則では、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常(ヒヤリ・ハット)が存在するという。
1年後には4,000人以上の作業員が入るという巨大事業の工事では重大事故が起きる可能性は必然的に高くなる。どのような対策を講じて工事を進めるかはそれぞれの手腕にかかっていますが、工程優先ではなく安全優先で作業を進めてもらいたい。
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