大型起重機船を使用しない最大のデメリット
今回提案された大型起重機船ではなく”chain puller” を使用する方法に変更したことで大きく異なるのが水切り出来ないという点。「海翔」などの起重機船で吊り上げれば最寄りの岸壁に吊り運搬したり、輸送台船に搭載して解体場所まで運ぶことが出来ますが、台船2隻で”chain puller” を使用する方法では、水面より上に撤去物を吊り上げることが出来ない。
「セウォル号」引き揚げの時は、台船2隻で水面まで引き揚げた後、半潜水式重量物運搬船「WHITE MARLIN」を半潜水させた状態で「セウォル号」の下に配置して運搬船に搭載するという方法が行われています。
日本国内には同様の半潜水式重量物運搬船は、深田サルベージ建設㈱が所有する「OCEAN SEAL Ⅱ」しかいない。
似たような性能を持つフローティングドックは結構いますが、作業用のクレーンが搭載されていたりするので、今回のようなサルベージ作業には不向きと言える。
日本国内で隻数が少ない半潜水式重量物運搬船を国外から調達してくる可能性も考えられますが、その他の手段として考えられるのが、支障のない位置まで移動させるという方法。
可能性は低いと思いますが、半潜水式重量物運搬船への搭載を考えず、台船2隻で撤去物を吊り上げた状態で曳航し、港内で船舶の航行に支障がない位置へ仮置きするという方法。フローティングドックでケーソンを製作し、浮上・曳航して数百トンクラスのクレーン船で据付が行われる東北や日本海側などの地域では港内に製作したケーソンをストックするため、沈めて仮置きすることがある。ただ、この方法だと最終的には再度、吊り上げる必要があるので効率的とは言えませんね。
類似する「DB1」引き揚げ
同じように台船2隻を使用して”chain puller” を使用する方法で引き揚げられた「DB1」。厳密に言うとクレーン船とクレーン付き台船の2隻ですが。
出典:Resolve Marine
2018年8月にメキシコ湾で行われた「DB1」の引き揚げ作業。引き揚げに使用されたのは、1,400トン吊りクレーン船「CONQUEST MB1」と「RMG 302」というクレーン付き台船。
この時の引き揚げ重量は6,000トン。
引き揚げ方法の変更が吉と出るか凶と出るか?
今回、変更の提案があった「チェーンプラー」と呼ばれる装置を使用する撤去方法の概要は何となく見えました。確かに大型起重機船を使用しない方法で汎用性の高い台船を使用することで拘束期間の縛りは緩くなりますが、それでも海象の穏やかな日じゃないと作業出来ないことには変わりない。台船の設備と撤去物に仕込んだチェーンとを連結する作業には潜水士の存在が不可欠。引き揚げ作業で取り扱うチェーンは恐らく大きなもので、人力で動かせるようなものではなく小型のクレーン船との相番作業となれば尚更。
引き揚げ方法の変更が吉と出るか凶と出るか。終わってみないと分かりませんが、今後も作業の進捗に注目していきます。
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