2022年9月完成予定の浮体式洋上風力「Hywind Tampen」。完成すれば世界最大の浮体式洋上風力になるビッグプロジェクトが最終段階を迎え、現地海域への風車設置が始まったようだ。
本題に入る前に基本的なことを確認。
洋上風車基礎には着床式と浮体式があり、読んで字のごとく海の上で風車が海底面に立っているか浮いているかという違い。着床式の洋上風車は水深50m~60mまでの比較的浅い海域に適用され、それより深い水深には浮体式の洋上風車が適用される。
Σ64 – 投稿者自身による著作物, CC 表示 4.0, リンクによる
水深50m~60mに存在する境界線はコスト面に由来する。
基本的に水深が深くなると両者ともにコストは高くなる。水深50m~60mを境に着床式のコストが浮体式のコスト超えてくるという理由。
「潜在する世界の洋上風力発電資源の約80%は深い海にある」
Eldar Sætre(Equinor CEO)
日本風力発電協会の試算によると日本の浮体式洋上風力ポテンシャルは着床式の3.3倍。
<参考>我が国の洋上風力発電のポテンシャル
着床式洋上風力ポテンシャル:約128GW(水深 10~50m)
出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第39回会合)| 資料4 日本風力発電協会)
浮体式洋上風力ポテンシャル:約424GW(水深 100~300m)
着床式に比べて浮体式洋上風力は世界的にも設置されている発電容量はまだ少ない。これから商用規模の設置が増えていくという段階。
今回の浮体式洋上風力「Hywind Tampen」。着床式に比べて規模的には大きくはないが、完成すると世界最大になるという。
それでは、本題へ。
Hywind Tampen
ノルウェー西部の沖合140km、北海に建設中の浮体式洋上風力「Hywind Tampen」。2020年10月に建設が開始され、2022年9月までに完成する予定。
少し古い記事だと発電容量は 8MW×11基=88MW になっていますが、8.6MW/基の風車が納入されるようです。
”Hywind”(ハイウィンド)とは、北欧最大のエネルギー企業「Equinor」の浮体式洋上風車につけられた製品名。「Hywind Tampen」の他に、「Hywind Scotland」でも使用されている。
コンクリートスパー型
👆上の図で言うと風車下側の浮体構造がコンクリート製。スパー型なのでビール瓶のような円柱状。特徴として、構造が単純なので製造が容易で、安定性にも優れているが、基礎部分の喫水が大きいので組立、輸送時の水深に制限がある。
最終的に設置する水域の水深は当然深いけど、製造・組立・輸送を行う水域も水深が深い場所が必要になる。
「Hywind Tampen」は水深の課題をクリアするために段階的に場所を変えながら製造・組立を行っている。
基礎部分の製造
基礎部分の製造は下から上に向かって順に作られていきますが、最初に下側20mをドック内の気中で製造。場所は、①Stord。
次に、②Dommersnes で残りの基礎部分を製造していく。ここでの製造で20mだった基礎部分の高さが107mになる。台船3隻を縦に係留して岸壁から沖に離して基礎部分が係留できるように工夫していますが、あの位置で水深70m程度はあることが想像できます。
日本にこれだけの水深が確保できる港はあるのでしょうか。
長崎県五島市椛島に設置されたスパー型の浮体式洋上風車は横に倒した状態で基礎部分を製造、水深が深い場所へ運搬して大型起重機船で建て起こすという方法でした。ひと手間加わるので地形条件的に日本は不利ですね。
上部の風車を浮体基礎に搭載
完成した基礎部分は、③Gulen で上部の風車を搭載して完成。
風車の組立を行っている巨大クレーンはmammoetの「PTC 200-DS」という型式のリングクレーン。最大吊り上げ能力は5,000トン。能力表を見ると、カウンターウェイト3,500トン、ブームの先に取り付けられたラッフィングジブ使用、作業半径102mで600トン程度の吊り上げ能力がある。
「Hywind Tampen」の工事に合わせてこの場所にクレーンを建造。旋回時に走行する車輪が走るリングの外径は49.5m。クレーンを設置するために、岸壁を補強する支持杭を含めた基礎工事から整備されている。
浮体基礎と一体化した風車を現地へ曳航
Gulenで完成した風車を設置する海域へ向け曳航。2022年6月3日時点で設置する11基の内、4基が設置された。
2022年9月の完成に向けて工事も最終段階に入っている。
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