重たいものを軽々と吊り上げるクレーン船(起重機船)。その構造的なメカニズムも興味深いですが、他にもあまり知られていない多くの秘密が。
クレーン船(起重機船)のヒミツを徹底解明。
1.重たいものを吊り上げる仕組み
日本で一番大きな起重機船「海翔」の最大吊り上げ能力は4,100トン、世界最大はオランダのHeerema Marine Contractorsが所有する「Sleipnir」。最大吊り上げ能力は20,000トン。
日本と世界では差がありますが、どちらも驚異的な重さであることは変わりありません。
数字が大きすぎるので想像し易いように、最大吊り上げ重量を人間の人数に換算すると、海翔で約63,000人(1人当たり65㎏換算)、Sleipnirは約307,000人。
動滑車の原理
クレーン船(起重機船)のメインフックにはフックブロックと呼ばれる”動滑車の原理”が使用されています。
”滑車の原理”を発明したのは、2400年前の古代ギリシャ人 アルキメデス。
動滑車の原理とは?
動滑車を使用すると、物体を持ち上げる時に半分の力で持ち上がり、持ち上げた物体の高さが引っ張った長さの半分になる。
Sleipnirの10,000トンフック
動滑車の原理は、滑車の使用枚数によって力を増幅させることが出来る。
先程の例だと1枚の動滑車を使用した状態で 持ち上げる力=2倍、高さ=1/2 になりましたが、動滑車を2枚に増やすと 持ち上げる力=4倍、高さ=1/4 になります。
持ち上げる力は 2×(動滑車の枚数)、高さは 1/(2×動滑車の枚数) という感じ。
「Sleipnir」のフックブロックで検証してみましょう。
画像を拡大して確認したところ、使用されている滑車の枚数は40枚。
動滑車の原理に当てはめると、持ち上げる力=2×40=80倍、高さ=1/(2×40)=1/80。
フックブロックの定格荷重10,000トンを倍率の80で割ると125トン。Sleipnirの10,000トンフックを巻き上げているウインチは125トン巻き以上が使用されていることが分かります。実際何トン巻きのウインチを使用しているのかは分かりませんが。
ちなみに日本最大の起重機船「海翔」は、メインフック1,025トン。フックブロックに使用している滑車の枚数は、10枚。メインフックのウインチ能力は70トン巻き。70トン×2×10枚=1,400トン。36%くらい余裕があります。「Sleipnir」も同程度の余裕とすると、想定ウインチ能力は150トン~170トン巻き。
フックの動きが遅い理由
動滑車の原理を使用すると力の増幅という恩恵を受ける代わりに、フックブロックの上げ下げに時間がかかってしまうという代償を払うことになる。
「海翔」で1/20、「Sleipnir」だと1/80。単純に「Sleipnir」の主巻ウインチを80m巻き上げてもフックブロックは1mしか上がらない。
2.船がひっくり返らないワケ
次に、海に浮かんでいるクレーン船が重たいものを吊り上げてもなぜひっくり返らないのか?
クレーン船で重たいものを吊り上げると👆上の画像のように吊り上げている方に大きく傾いて不安定な状態になってしまいます。
では、どんな対策を行っているのか?
クレーンと反対の船体部分にバラスト水を入れて安定させている。
「Sleipnir」のバラストタンク容量は19万トン。
船によってバラスト水は、海水を使用するものと真水を使用するものがある。海水を使用する場合はバラストタンクへの取水、排水が自由にできるが、真水を使用する場合は排水する事は出来ても現場では取水することが出来ない。なので、真水を使用する船は、バラストタンク内でバラスト水を移送して調整している。
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