Maersk Offshore Windの洋上風力設置船進水
Maersk Offshore Windは、シンガポールのSeatriumで建造している風力設置船(WIV,Wind Installation Vessel)が進水したことを発表しました。
Maersk Offshore WindがLinkedInで公開した動画によると、進水がおこなわれたのは2025年4月21日。SeatriumのTuas Boulevard Yardで建造した船体部分は進水後、引き続きおこなわれるクレーン設置の準備に向けて岸壁へ移動しました。
建造中の風力設置船は、2025年内に引き渡しがおこなわれる予定。
アメリカのジョーンズ法に対応した風力設置船

Maersk Offshore Windの風力設置船は、アメリカのジョーンズ法に対応した機能を搭載しているという今までにない珍しい仕様のSEP起重機船。
風力設置船自体はシンガポールで建造しているため、”米国建造”というジョーンズ法の要件を満たしていませんが、船尾側にコの字型の切り欠きが設けられており、その部分にジョーンズ法に準拠した専用輸送船を係留して必要な部材を輸送。輸送船上のトレイに積まれた風力タービン部材をトレイごとリフトアップして荷受けするという仕組み。
風力タービン設置だけではなく、2024年11月にMaersk Offshore WindはTWDと共同で開発しているモノパイル輸送および設置について、建造中の風力設置船を使用して施工を可能にする新しいコンセプトを発表しています。
アメリカのジョーンズ法による洋上風力建設への影響
アメリカ国内の地点間における国内輸送(内航)をおこなう船舶を限定するジョーンズ法と呼ばれる法律。その要件には米国船籍、米国人配乗、米国人所有に加えて、他国には無い米国建造という要件が含まれており、洋上風力発電所建設時の大きな障壁となっている。
- 米国船籍
- 米国人配乗
- 米国人所有
- 米国建造
ジョーンズ法の影響を受ける風力タービン設置作業では、SEP船など他国建造の設置船甲板に部材を積み込みして拠点港から設置場所へ運ぶことが出来ないため、ジョーンズ法に準拠した船舶で運搬する方法以外にも様々な対策が考えられている。
Maersk Offshore Windの風力設置船

船名 | 未発表 |
クレーン能力 | 1,900トン |
揚程 | 180m |
長さ | 145m |
幅 | 83.2m |
深さ | 11m |
レグ長さ | 118m |
スラスター | アジマス 4,300kW×6基 トンネル 900kW×2基 |
DPS | DP2 |
速力 | 7ノット |
甲板面積 | 4,000m2 |
甲板強度 | 7.5トン/m2 |
宿泊設備 | 100人 |
船籍 | デンマーク |
風力設置船の船体寸法は長さ145m、幅83.2m、深さ11m。メインクレーンの最大吊り上げ能力は1,900トンで揚程180m(甲板上)のメインフックに加え、揚程190mの300トン吊り補助フックを備えている。
ジョーンズ法に対応するための機能として大きな特長の1つである船尾側に設けられた切り欠き部分には、専用船で輸送した部材を荷受けするためのトレイ昇降設備があり、貨物昇降時の最大重量は5,000トン。さらに、荷受け時に波浪の影響を受ける輸送台船を下に押し込んで船体動揺を低減するジャッキが4基設置されている。ジャッキのストロークは2m、押し込み容量は9,200トン(アクティブ)、14,400トン(パッシブ)。
- 貨物昇降時の最大重量:5,000トン
- バージ押し込み量:2m
- 押し込み容量:9,200トン(アクティブ)、14,400トン(パッシブ)
- ジャッキ数:4基
自己昇降式のSEP起重機船を使用した風力タービンの施工は、既に多くの施工実績がありますが、海上輸送した部材をクレーン以外の設備で荷受けするというのはこれまでに無い施工方法。なので、風力設置船で専用輸送船から部材を荷受けする作業が大きなキーポイントになる。
専用輸送船はBollinger Shipyardsで建造、2026年引き渡し予定

出典:Maersk Offshore Wind
Maersk Offshore Windの風力設置船で使用する専用輸送船は、アメリカのボリンジャー造船所(Bollinger Shipyards)で建造され、2026年に引き渡し予定。建造予定のタグボート2隻とバージ2隻については、Edison Chouest Offshore(ECO)が所有・運航をおこなうことが発表されています。Maersk Offshore Windのウェブサイトにはタグボートとバージの詳細情報がArticulated Tug/Barge(連結式タグ・バージ)として掲載されており、押船方式で連結した上でDPS-2の自動船位保持能力を有している。バージへの電力供給はタグから有線ケーブルによりおこなわれる仕組み。船体寸法などの要目は以下の通り。
専用輸送船 タグとバージの概要
船種 | Barge |
載貨重量トン数 | 7,044トン |
長さ | 68m |
幅 | 36m |
深さ | 12m |
スラスター | アジマス 1,350kW×2基 トンネル 1,400kW×1基 |
DPS | DPS-2 (タグ・バージ連結時) |
速力 | 6ノット (タグ・バージ連結時) |
船籍 | アメリカ |
船種 | Tug |
総トン数 | 200トン未満 |
長さ | 43.3m |
幅 | 13.4m |
深さ | 7.5m |
スラスター | アジマス 2,500kW×2基 |
DPS | DPS-2 (タグ・バージ連結時) |
速力 | 6ノット (タグ・バージ連結時) |
船籍 | アメリカ |
設備面の機能を見ると上手くいきそうな気もしますが、気象海象の影響を大きく受けるので作業中止基準が低くなりそうな点と運用時の可否判断が非常に難しそうな点が懸念される。沖合の施工場所で専用輸送船から荷受けする作業は毎回ヒヤヒヤしそう。
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