中国のSEP船「振江」で起きた浸水事故に保険金約37億円
江苏振江新能源装备股份有限公司
关于控股子公司保险纠纷案收到理赔款暨结案公告(江蘇振江新能源装備股份有限公司)
(保険金請求の受理および子会社保険紛争の終結に関するお知らせ)
上海証券報(https://paper.cnstock.com/html/2023-07/05/content_1790836.htm)
3年前に中国で起きたSEP起重機船「振江」(zhen jiang)の浸水事故に関して1億8,700万元、日本円に換算すると約37億円の保険金が支払われたという。
2023年7月5日、江蘇振江新能源装備股份有限公司(振江股份)は、子会社である尚和(上海)海洋工程設備有限公司(上海海工)が中国太平洋財産保険股份有限公司から保険金として7月3日に1億8,700万元を受け取ったことを明らかにした。2021年9月25日に上海海工と中国太平洋財産保険は、SEP船「振江」で起きた浸水事故の保険契約をめぐる紛争に関して訴訟を起こしており、上海海事裁判所から下された「民事調停状」に基づいて保険金が支払われたという。
事故で発生した海難救助費及び修繕費などにかかった費用は2億1,700万元、日本円に換算すると約43億円。この金額から支払われた保険金を差し引いた実際の損失額は3,000万元ですが、振江股份と海事弁護士、監査会計士による総合的な検討では損失額を6,400万元と試算している。
損失額3,000万元でも日本円に換算すると約6億円なので大きな損害であることは間違いありませんが、事故処理にかかった費用の約43億円に対する比率で考えると約14%に過ぎません。ということは、SEP船を運航していた側の過失割合が少なく、正常な操作をおこなっていた上で発生した事故であると認められたという事になるのでしょうか。
SEP船「振江」浸水事故
SEP船「振江」は事故当時、江蘇省 南通市 如東県の沖で華能如東(huaneng rudong)洋上風力プロジェクトで、5MW風力タービン設置作業に従事していた。
事故が起きたのは、2020年7月4日21時頃。4本のレグでジャッキアップした状態から船体を下げるためにレグを引き抜く操作をおこなったところ、海底に埋まり込んだレグが抜けなくなるという事態に。さらにレグを操作する油圧装置が故障し、操作が出来なくなったところに潮位が上昇してきて浸水し、機関室などがある船体部分に海水が流入してしまったという。
この事故に関する調査報告書を見つけることが出来なかったので、油圧装置が故障した経緯などの詳しい事情は分かりません。ですが、事故当時の報道記事によると、船体内部への浸水を防ぐ水密扉が閉まらなかったことと緊急時の対応手順が整備・周知されていなかったことが事故の原因である可能性が高いという分析。
事故当時の中国における洋上風力産業の背景として、2014年に中国政府が打ち出したFIT価格による優遇政策が2019年から補助金の縮小、2020年以降の新規プロジェクトに関しては中央政府の補助対象から除外されるという状況の中、多くのプロジェクトが盲目的に開始されていたという事情がありました。それにより、施工する機械や設備は整えても操作する作業員や施工管理をおこなう人的要素が不足し、訓練されていない未熟な状態で作業に従事していたことも要因の一つになっていたようです。
日本でも海底地盤の地質条件によっては、レグが抜けなくなるという現象が起きる可能性は十分にあり得る。パイルシューと呼ばれるレグ底部に対策が施されていると思いますが、事態が起きた時の対応手順は整備しておく必要がありそう。
SEP起重機船「振江」の概要
SEP起重機船「振江」は、2018年3月に建造が開始され、浸水事故が起きる7カ月前の2019年12月に完成・引き渡しがおこなわれている。1,200トン吊りのメインクレーンと200トン吊りの補助クレーンを搭載し、DP-1を備えた自航式のSEP船。
船名 | 振江 (zhen jiang) |
クレーン能力 | (主)1,200トン (補助)200トン |
長さ | 103.8m |
幅 | 41m |
深さ | 8.2m |
レグ長さ | 不明 |
最大作業水深 | 50m |
速力 | 7ノット |
DPS | DP-1 |
建造年 | 2019年12月 |
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