いよいよ始まった五島市沖洋上風力発電事業の海上作業。風車基礎の構造が秋田で設置が完了した着床式とは異なる浮体式が採用されている。大規模な商用の浮体式洋上風力としては国内初。日本の浮体式洋上風力の先陣を切ったこの工事には世界が注目している。
五島市沖洋上風力で海上の風車組立作業開始
2022年10月初旬、長崎県五島市福江港の岸壁で設置される浮体式風車8基の内、1号機となる浮体が半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」に積み込みされた。戸田建設の掲載記事によると10月8日に風車の組立を行う椛島沖へ向け出港する予定。
2024年1月に商業運転開始の予定。
五島市沖洋上風力発電事業の概要
浮体式の中でもハイブリッドスパー型と呼ばれる構造が採用されている。浮体の上部は鋼製、下部はコンクリート製。特徴としては、単位面積あたりの重量が小さく、地盤耐力の小さい岸壁でも建造可能。構造が単純なので製造が容易で、安定性にも優れている。
一方、基礎部分の喫水が大きいので組立、輸送時の水深に制限があるため、今回の五島市沖洋上風力のように横倒しで製作、水深が深い場所へ曳航して進水といった少し非効率的な施工手順を踏まざるを得ない。海外では同じスパー型を採用しているノルウェーの「Hywind Tampen」では、8.6MW風車という桁違いの規模ですが、横倒しすることなく立てた状態で浮体建造・風車組立を陸上のクレーンを使用して行っている。
北欧の様に港内でもすぐ沖が深くなっているような岸壁が日本にあれば同様の方法で施工可能ですが、そうはいかない。日本の地形的に不利な要素を物ともせず、工夫された施工方法はとても良いと思いました。
施工方法について
- 福江港浮体製作、浜出し
鋼製ブロックとコンクリート部材の接合を行い浮体を製作、半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」への浜出し、椛島沖へ曳航。
- 椛島沖浮体進水、建て起こし、風車組立
半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」を沈めて浮体を進水し、バラスト注入して浮体を建て起こす。仮係留の状態で起重機船により風車組立。
- 設置海域浮体式風車の本係留、海底ケーブル接続
完成した浮体式風車を設置海域へ曳航し、予め展張しておいた本係留設備(アンカー・チェーン)により係留。海底ケーブルとの接続を行う。
風車組立は「第50吉田号」
長崎県五島市で素晴らしい眺めのコワーキングスペースを提供されている方のTwitterに画像があげられていましたので拝借。
半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」により椛島沖へ曳航された浮体を進水・建て起こしに続く風車組立は「第50吉田号」で作業するようです。
少し前から現地海域付近には、㈱吉田組所有の3,700トン吊り起重機船「第50吉田号」が到着。AIS情報を見ると「第50吉田号」はAISを発信してませんが、ロングサイドしているボートの配置でそこにいるんだなというのは分かります。
半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」
五島市沖洋上風力の建設において重要な働きを担っている半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」について。
「フロートレイザー」(FLOAT RAISER)船名の由来は、その名の通り”FLOAT”(浮体)を”RAISER”(建て起こす)という意味。スパー型の浮体を建て起こす作業のために建造。国(環境省)の補助を受けて2018年5月に完成。
建造を行ったのは、戸田建設㈱と㈱吉田組の共同出資会社であるオフショアウィンドファームコンストラクション合同会社。
今回の五島沖洋上風力で設置されるスパー型の浮体式洋上風車とほぼ同型の浮体式2MW風車「はえんかぜ」の設置を2013年に行っている。この時は浮体の建て起こし作業を「第50吉田号」で行っていましたが、より効率的な施工のために半潜水型スパッド台船「フロートレイザー」が誕生したのでしょう。
船名 | フロートレイザー FLOAT RAISER |
長さ | 110m |
幅 | 43m |
深さ | 6.8m |
喫水 | 4.7m |
スパッド長さ | 40m |
潜水時の甲板深度 | 7.4m |
総トン数 | 12,300トン |
デッキ面積 | 3,890m2 |
載貨重量トン数 | 13,500トン |
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