座礁船「クリムゾンポラリス」FD搭載作業中に台船破損で作業中断
2021年8月に青森県八戸港の沖で座礁した木材チップ専用船 CRIMSON POLARIS(クリムゾン・ポラリス)の残された船尾部分撤去作業のうち、昨年末に八戸港中央防波堤の港内側へ移動を完了させていた機関室をフローティングドック(FD)「宏洋12000」に搭載する作業が進められていましたが、作業中に台船破損が確認されたため作業を中断したという。
報道で情報を知り、限られた設備や機材を使用しての難しい作業というのは理解していましたが、順調に作業が進んでいないことが報じられており、危険な作業に従事している現場の方を思うと少し心配。どのような問題が原因でトラブルが起きているのかを知るために、報道されている情報を確認。まず気になったのが、”台船破損” の台船はFDなのか、それともチェーンプラーを搭載した台船なのか、どっちなんだろう?という点。
報道されている情報について
八戸港 座礁貨物船 機関室の引き揚げ作業始まる
(抜粋)
きのうは作業途中で周辺に微量の油がオイルフェンスの外まで流れ出して防除作業も行われました。
https://news.ntv.co.jp/n/rab/category/society/ra318a76c695304fafbfe67c715d396364
一方きょう午前7時ごろから再開された作業では機関室部分の重さで水中から海面に引き揚げる台船のデッキが破損して水漏れが起きたということです。
その後デッキの破損した部分が複数確認されたため午後になって台船の積み込み作業は中止になりました。
時系列的に最も早く報道されていたのはRAB青森放送。この記事を読んだ印象としては、”水中から海面に引き揚げる台船のデッキが破損” と書かれているので、破損したのはFDではなくチェーンプラーを艤装した台船の方だと思いました。
記事の中でFDのことを ”特殊な台船” と表現しており、記事を書いた記者の方はFDのことを ”台船” として終始表現しているんだと思いますが、同じ作業の中でチェーンプラーを艤装した台船を使用しているので明確に分かるような表現で報じる必要がある。
結局のところ、他の記事を確認するとFDのデッキが機関室を搭載した時の重量で破損したようです。FD側にトラブルが生じたのであれば、とりあえずチェーンプラーで再度引き揚げれば事態が急速に悪化することはありませんが、機関室を吊り上げている台船の方が破損・浸水してしまうと全船が制御できない状態に陥ってしまうので大事故に発展しかねない。
同日掲載のデーリー東北の記事では、FD船が損傷したことを報じていました。
【貨物船座礁】FD船が損傷、撤去難航/八戸港
https://www.daily-tohoku.news/archives/213900
フローティングドックのデッキ破損は集中荷重が原因?
台船やFDなどの甲板に重たいものを積む時、真っ先に考えるのは如何にして荷重を分散させるかという点。
今回、使用しているFD「宏洋12000」の甲板強度は18トン/m2。機関室の重量は1,700トンと報じられており、単純に考えると約100m2以上の面積で受けるように搭載しなければならない。平坦に見える甲板はフレームやロンジと呼ばれる骨の上に載せた鋼板であるため、構造的に骨の無い部分へ荷重が集中すると破損につながってしまう。
通常の積み込みであれば搭載位置を微調整することが可能ですが、今回の機関室は波浪により分断し、天地が逆で形状が不明なため、どの部分が甲板に設置するのか想定するのは困難であったことが想像出来る。甲板に敷鉄板を設置したり、骨の位置に桁材を置くなどの荷重を分散させる対策はおこなっていたと思いますが、機関室の下部に想定外の凹凸がありFD甲板が破損してしまったのかもしれません。
気になるのはFDの甲板破損がどの程度なのかという点。応急的な処置で復旧できる軽微な破損であればいいんですけど、もし本格的に修繕が必要な状態であれば今後の作業工程にも大きく影響する事態になりそう。
フローティングドック(FD)「宏洋12000」の概要
船名 | 宏洋12000 |
載貨重量トン | 約12,000トン |
長さ | 64m |
幅 | 45m |
深さ | 5.3m |
最大甲板深度 | 21.5m |
搭載クレーン | 6トン×2基 |
甲板強度 | 18トン/m2 |
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